よく聞く馬尻とは?

「ペンポイントが馬尻になっている」万年筆に詳しい方は一度は耳にした事がある言葉だと思います。ですが実際に馬尻になっている状態を目にする機会は少ないと思います。単純にルーペでペンポイントを見る機会が少ないという事もありますが、ルーペで頻繁に見る機会がある方でもあまり見た事がないのでは?と思います。万年筆のペン先調整をしている私でも実は「これぞ馬尻」という事例に遭遇するのは稀です。馬尻という名称自体正式なものではないと思いますが、このペンポイントの状態を理屈っぽく呼ぶと「ペンポイント切割り内面部研磨過多」です。馬尻はこの中の1つの形です。細かい部分は後で触れます。

切割り内面部研磨過多はどのような流れで発生するかですが、ペン先の製造の流れから説明が必要です。ざっくりした説明ですがペン先はインゴットを圧延したり型抜きしたりした後に球付けをします。その後にスリットを入れます。球をスリットで分けた状態というのは切り口が鋭利になっています。筆記時にペン先は切割りが僅かに開くのですが、この時に切り口の鋭利な箇所が紙に擦れます。これを防ぐ為に縁(切割り内面)を丸め磨きします。丸め磨きを多く過ぎたのが文字通り研磨過多です。研磨過多では切割り内面が丸く落ち込むので切割り付近が谷のようになります。

研磨の度合いや角度で谷の形が変わります。急な角度で研磨すると急角度な深い谷底になります。この場合、インクが谷底に落ち込んだようになりますので書き始めにインクがペンポイント表面まで辿り着かず空振りします。何度か擦り付けるうちにやっと紙にインクが付き引き出されて連続筆記できるようになります。研磨過多になる要因で大きいのは過度な強さでの磨きです。例えば角度を浅くしても過度な強さで行うと浅く広い面積の谷になります。広範囲に及ぶと切割りの谷部分以外は逆に山のようになります。切割りを挟んで山が両側にできます。馬のお尻のように張り出します。これが俗に言う「馬尻」です。

悪い意味完璧な馬尻は書き出しのみならず、ほとんど書けません。アイコンの画像を程度が軽く馬尻とは呼べないレベルです。ルーペがなくても研磨が過多かを判断する方法があります。インクが入った状態でペン先を90度、60度、45度、30度と角度を変えて紙にタッチします。これでインクが点状に色がつかなかった箇所が研磨過多です。一度試して実際に筆記して問題があればぜひご相談くださいませ。